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※以下は、掲載された内容に 聞き手の山尾敦史氏が加筆してくださったものです。 ニューヨークに住み、アメリカの音楽と文化を生活レベルで感じながら、その魅力を日本のリスナーに伝えてくれるヴァイオリニスト、大津純子が、自らプロデュースする「室内楽シリーズ」として、4回にわたるアメリカ音楽シリーズを企画。「グッド・オールド・デイズ・フロム・アメリカン・ルネッサンス・トゥ・ザ・ジャズ・エイジ」と題する第1回目を聴き、その楽しさに心からわくわくした。共演は大津と共にエッコ・トリオ(ピアノ・トリオ)を組むコレット・ヴァレンタイン、そして大津とのデュオ・コンサートやCDで共演の多いジャズ・ピアニストの佐藤允彦ほかのミュージシャン。 さらには本誌でもおなじみの黒田恭一さんと、村上春樹との共著『翻訳夜話』や数々の現代アメリカ文学翻訳で知られる柴田元幸さんのトーク、文学座俳優の石田圭祐さんが朗読するマーク・トウェイン……。アメリカの多様な文化を背景に、黒人霊歌やその影響下にあるディーリアスの初期のヴァイオリン曲、ブルースのイディオムを使ったラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ」、フォスターやガーシュウィン、ゴトシャルクなどの曲が次々に演奏された。 「二年越しのプランなんです。アメリカに住み、エッコ・トリオの活動などでたくさんのアメリカ音楽を演奏していますと、あまり知られていないのに『これがアメリカだ!』と言える大らかな音楽がたくさんあるんです。 今回演奏したエイミー・ビーチという女性作曲家の曲も、聴いた方みんなが美しいと言うほど。女性の作曲家というだけでいろいろな圧力をかけられた時代でしたが、それでも本格的な交響曲やミサ曲などを書いており、アメリカが自国の文化や音楽に対して、強い意識を持ち始めてきた時代とも重なるんです。その時代の空気を感じてもらうためにも、彼女の曲はどうしてもプログラムに入れたかった。 日本ではアメリカのクラシック音楽というと、バーンスタインやコープランド、それからバーバーの<アダージョ>とか、どうしても限られたものしか知られていないじゃないですか。しかしガーシュウィンなどが活躍する前の時代に『ニュー・イングランド楽派』の作曲家たちがアメリカ音楽の土台を築きあげた時期がありました。 ブラームスやラフマニノフのような味わいを感じさせながらも、決してヨーロッパからの影響だけで成り立っているのではなく、この時点ですでに多層的な文化や民族の歴史をベースにしながらオリジナリティを持っているのですね。クラシック音楽の世界では、どうしても『アメリカの音楽はヨーロッパの借り物だ』とか、『ガーシュウィン以前の音楽は二流だ』というような偏見があると思うのですけれど、すでにその時代からアメリカらしさを模索しているんですよ。ジャズの成り立ちだって、まさに文化の融合から新しいものを創造しているわけじゃないですか。そうした魅力をおもしろく伝えたいため、あえて普通のヴァイオリン・リサイタルとはまったく異なったプログラムを組み、さらには柴田さんにお願いして文学という視点から文化の成り立ちにアプローチしていただき、当時の文化的な背景はどうだったのかをわかりやすく解説して欲しかったのです。 それから、古いジャズ風のスタイルにアレンジして、ガーシュウィンやフォスターの曲などを演奏するという方法も必要だと思いました。その方が当時の雰囲気をよく伝えられるでしょうから。今回の演奏でホンキートンク・ピアノを入れたのは黒田さんのアイデアですが、本当は映像や写真など、もっといろいろな要素を取り入れて、音楽をもっとおもしろく聴いていただきたかったのです。それが次回以降のお楽しみということで(笑)」 第1回目となった今回は、シリーズ全体の予告編とも言えるバラエティ豊かなプログラムだったが、今後は「チャップリン」「新大陸」「スコット・フィッツジェラルド」というキーワードが並ぶ。まさに、多様な文化やライフスタイルを起点とする多角的なアメリカ音楽カタログ、というところ。 「このシリーズでは毎回、映画や文学などのスペシャリストをゲストに招いて、いろいろなタイプのお客様にアメリカ音楽の魅力を知っていただきたいんです。 20世紀初頭のパリには芸術サロンがあり、 音楽家、画家、詩人、建築家などさまざまな人が集まっては、互いに刺激しあって新しい時代を築いていったらしいのですね。音楽家と詩人が出会って刺激会い会ったり共同作業をしたり、フランスの六人組やピカソ、コクトーたちの交流も、新しい流行を生み出していくわけですよね。そこにファッションや文学、批評などさまざまな人たちが集まってくる。このシリーズが目指しているのも、そうした芸術サロンなんです」 |